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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)140号 決定 1984年6月14日

抗告人 反田久幸

相手方 小川佐喜司 外一名

主文

原決定を取り消す。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。本件独立当事者参加を認容する。」との裁判を求めるというものであり、その理由は、別紙「抗告の理由」と題する書面記載のとおりである。

二  よつて検討するに、一件記録によれば、抗告人は、昭和五八年五月三〇日、前文掲記の境界確定請求事件(以下「基本事件」という。)に対し民訴法七一条に基づき独立当事者参加の申立に及んだが、基本事件については、これより先の同年四月一九日午前一〇時の口頭弁論期日に弁論が終結されていたこと、原審裁判所は、昭和五九年三月二六日、「基本事件についての口頭弁論を再開するのは相当でなく、したがつて、右参加申立は不適法となるのでこれを却下する」旨の原決定に及ぶと共に、基本事件につき同日、判決を言い渡したことが認められる。

ところで、民訴法七一条に基づく独立当事者参加は、係属中の訴訟の当事者双方に対する関係で、第三者が、その訴訟手続において、自らの請求について判決を求めることを目的とするものであるから、独立当事者参加の申立はそれ自体訴提起の実質を有するものである。したがつて、その申立に対する裁判は判決手続をもつてなされるべきであり、その申立が不適法のときは、終局判決をもつてこれを却下する裁判をすべきである。しかるに、原審裁判所は、これと見解を異にして、前叙のとおり本件独立当事者参加申立を不適法としながら決定をもつて却下の裁判を下したものである以上、決定をもつて裁判をすることを得ない事項につき決定をしたものとして手続に法令違背があり、この点において原決定は取消を免れない。しかも、本件独立当事者参加申立の許否については、抗告審である当裁判所の判断の限りではない。

ところで、一件記録によれば、抗告人は、基本事件の判決言渡後、この判決に対し第一審当事者参加人として当裁判所に控訴を申し立て、その結果、一件記録は、控訴事件としても当裁判所に送付されるに至つている(なお、基本事件の当事者は控訴申立をしていない。)ことが明らかである。

さて、本件のごとく、一審裁判所に係属中の訴訟事件(以下「基本訴訟」という。)の口頭弁論終結後にされた独立当事者参加の申立(以下「参加申立」という。)は、基本訴訟の口頭弁論が再開される場合には、基本訴訟の訴訟手続において審判がなされ得るが、口頭弁論が再開されることなく基本訴訟につき判決がされるに至ると、右参加申立は、その審級において基本訴訟と同一訴訟手続の下で現に審判を受け得ない訴訟状態におちいるのであるが、この場合において、たとえ、基本訴訟の当事者が控訴を申し立てなくとも、一審参加申立人が、既に参加申立をしていることを理由として、基本訴訟の当事者の上訴期間内に基本訴訟の判決に対し適法な控訴を申し立てれば、これにより、控訴の申立と共に参加の申立に及ぶ(民訴法七一条、六五条三項)場合に準じ、基本訴訟の控訴審の訴訟手続に参加することを得るものであり、なお、この場合、右参加申立の許否は、控訴審が審判することになると解するのが相当である。もつとも、控訴期間徒過等の理由により一審参加申立人の右控訴が不適法として却下され、右参加申立の許否については何ら控訴審の審判がされない場合が生ずれば、右参加申立のなされた一審裁判所が、この申立に対し判決をもつて裁判すべき筋合であるが、一審裁判所は、その際、一般的にいつて、右参加申立が基本訴訟を離れてもなお独立の訴として審判し得べきものか否かをも配慮すべきである。そして、以上の理は、本件において、前叙のとおり原決定が取り消される場合の本件独立当事者参加申立についても同断というべきである。

したがつて、本件については、特に原審に差し戻す旨の措置は採らない終局決定をすることとする。

三  よつて、原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 後藤静思 奥平守男 尾方滋)

別紙

抗告の理由

一 (原決定)

抗告人は、相手方小川佐喜司(原告)相手方国(被告)間の東京地方裁判所昭和五七年第(ワ)四九一九号境界確定事件につき、昭和五八年五月三〇日独立当事者参加の申立をしたが、同裁判所は昭和五九年三月二六日付を以て右申立てを却下する旨の決定をした。 二 (原決定の理由)

原決定の理由は、本件申立が本訴の口頭弁論が終結した後である昭和五八年五月三〇日であり、本訴についての口頭弁論を再開するのは相当ではなく、従つて本件申立ては不適法となるのでこれを却下するというのである。

三 (原決定の不当性)

1 抗告人は、相手方小川佐喜司が本訴(境界確定訴訟)の請求原因第一項で所有していると主張する土地中別紙目録(一)の土地を抗告人は相手方小川佐喜司から賃借し耕作中である。

従つて抗告人は右本訴の結果につき重大な利害関係がある。

2 ところで右訴訟は、原被告間において境界線につき合意が成立したものとして、何ら実質的な審理をすることなく弁論を終結してしまつている。境界確定訴訟のごとき形式的形成訴訟にあつては、たとえ当事者が争わない場合でも裁判所としては十分な証拠調をして判断を下すべきものであり、まして本件のように利害関係を有する者がある場合はなおさらである。

ところが裁判所は、当事者が争わないことから実質的な審理を放棄し、判決の機が熟していないにもかゝわらず弁論を終結してしまつたものである。

3 原決定は、形式的に弁論が終結したことをもつて独立当事者参加の申立が不適法であると言うがそもそも弁論終結自体が不当である以上、原決定自体不当であるというべきである。

4 然も弁論終結に至つた経過も不当である。即ち一件記録にも表われているとおり、抗告人は別に東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第八七一八号事件を以つて本件道路の反対側の境界線の確定を求めているが、本件抗告事件の原審裁判官は両事件は境界確定事件であるから併合は出来ないが並行審理をするから実質的に不合理な結論とはならぬようにするとし、事実そのとおり期日指定をしていたので当抗告人も参加まで考える必要性がなかつたところ、本事件原審については突如弁論を終結したものである。これを以つて抗告人が弁論終結前に参加の申立をしなかつたというのは不当である。

5 よつて原決定の取消を求める。

(別紙)物件の目録<省略>

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